相続放棄が受理されないケース

文責:所長 弁護士 伊藤貴陽

最終更新日:2024年03月22日

1 相続放棄の制度

 相続放棄は、管轄の家庭裁判所に対して、相続放棄申述書と戸籍謄本等の所定の書類を提出することで開始される手続きです。

 そして、家庭裁判所が、形式面、および法律面での審査を行い、相続放棄を認めてよいと判断した場合、相続放棄が完了します(「受理」されるといわれます)。

 相続放棄は、はじめから被相続人の相続人ではなかったことになるという法律効果があります。

 これは非常に強力な効果であり、相続財産を取得することができなくなりますが、相続債務も免れることができます。

 もっとも、相続放棄は、先に述べた手続きをすれば、必ず認められるというものではありません。

 被相続人が死亡すると、推定相続人であった方は、一旦は相続人になります。

 そして、相続放棄の申述が受理されると、遡ってはじめから被相続人の相続人ではなかったことになります。

 したがって、どのような場合でも相続放棄ができるとしてしまうと、相続関係が混乱してしまいます。

 そのため、相続放棄には期限が設けられているとともに、一定の行為をしてしまった場合には相続放棄が認められなくなるとされています。

 その趣旨は、相続する意思があると考えられる場合には、相続放棄を認めないというものです。

 一定の検討期間を経ても相続放棄をしないのであれば、相続をする意思があると考えることができます。

 また、相続人でなければできない行為をしたということであれば、やはり相続をする意思があるとみなすことができます。

 以下、詳しく説明します。

2 相続の開始を知った日から3か月が経過している

 相続放棄は、相続の開始(被相続人が死亡したこと)を知った日から3か月以内に行わなければならないとされています。

 この期間のことを「熟慮期間」ということもあります。

 正確には、相続の開始を知った日から3か月以内に、相続放棄申述書と付属書類を、管轄の家庭裁判所に対して提出し、受付けてもらう必要があります。

 ここで注目すべき点は、相続放棄の期限は、相続の開始があった日(被相続人が死亡した日)から3か月以内ではなく、あくまでも「相続の開始を知った日」から3か月以内です。

 その理由は、被相続人が死亡してから、相続人が被相続人の死亡を知るまでにタイムラグが生じることがあるためです。

 一般的には、被相続人が死亡した場合、死亡した日か、その数日後には被相続人が死亡したことを知ります。

 しかし、幼いころに両親が離婚し、それ以降片方の親が音信不通になってしまっていたような場合など、ご事情があって家族と疎遠になっていた相続人の方においては、被相続人が死亡してから1年近く経って、被相続人の債権者等から連絡を受けてはじめて被相続人が死亡したことを知るということもあります。

 このような場合において、すでに相続放棄ができないとされると、相続人の方にとっては酷な結果となります(しかも、このような場合、被相続人が債務超過に陥っていることも多いので、なおさらです)。

 そのため、相続放棄の期限は、相続の開始があった日(被相続人が死亡した日)から3か月以内ではなく、あくまでも「相続の開始を知った日」から3か月以内とされています。

 被相続人が死亡した日から3か月以内に相続放棄申述書等を管轄の家庭裁判所に提出した場合、期限の問題はほぼ生じませんが、被相続人が死亡した日から3か月を経過した後に相続放棄申述書等を提出する場合には、相続の開始を知った日を資料等でもってしっかり説明する必要があります。

 被相続人が死亡した日から3か月を経過していたとしても、被相続人が死亡したことを知った日からは3か月を経過していないということを、事情を知らない家庭裁判所に理解してもらわないと、熟慮期間内の相続放棄ではないと判断されてしまう可能性があります。

 そして、もしそのように判断されてしまいますと、相続放棄が受理されないこともあります。

3 相続財産の処分等

 相続財産を廃棄したり、売却、費消等をすると、相続放棄が受理されなくなる可能性があります。

 具体的な例としては、被相続人の預貯金を引き出して自分のために使ってしまうこと、被相続人が所有していた不動産や車両を売却すること、被相続人が所有していた空き家等の建物を解体することが挙げられます。

 例外的に、社会通念上相当な金額であれば、被相続人の葬儀費に充てることは処分行為とされないこともあります。

 また、これらの行為の前提として行われる遺産分割協議も処分行為とされます。

 これらの行為は、いずれも、基本的には相続財産を取得した相続人にしかできない行為であることから、相続放棄をする意思がないことの現れであるとされます。

 そのため、これらの行為があると、相続放棄が受理されないことになります。

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